未来メモリー

未来の自分に誇るメモリー

スピーカーおじさんとの遭遇

ボディソープがきれたので近所のドラッグストアに買いに行った。

ボディソープの置いてあるコーナーの近くの微妙な通路におじさんがいた。おじさんっていっても30代後半くらい。

何かの商品の販促キャンペーンの人みたいだ。商品と試供品のようなものがおじさんの横の机に積み上げられている。

急いでいたので声をかけられてから断るのも煩わしいと極力おじさんと距離を取り、目を合わさないようにしながら目当ての棚に行った。

ボディソープの棚を挟んで斜め後ろあたりに販促コーナーがあったので、何となくおじさんの気配を感じながらボディソープを選ぶ。ビオレにするかダヴにするか、ちょっと迷った。

迷ってるときに、おじさんは立ち位置そのままで突然大きな声で流暢に語りだした。

「お肌の乾燥してるあなた、いいお知らせです。こちらの新商品、ぜひ使ってみて下さい。内側から潤う!真の潤い!」(うろ覚えだがこんなニュアンス)

テレビショッピングの名物販売員を意識した語り口と言えなくもないが、正直なところあまり上手ではなく、どちらかというと店でエンドレスに流してる小さいテレビからブツブツと流れてくるCMっぽい。おじさんの語彙が少なく、同じフレーズを繰り返してるから余計にそう思えたのかもしれない。

話している声のトーンから、近づいてきたお客さんと会話している訳ではなく、店内の不特定多数の人に向かって発声しているようだ。トークは軽快ではないが声量はそこそこある。

何これ怖いと思い、ボディソープは超適当に選び、最短距離でレジに向かうにはおじさんの前を通らなければならなかったので、わざわざぐるりと遠回りしてレジに向かった。その間もおじさんのトークは切れ間なく続いていて、既に何度か同じフレーズをリピートしていた。

店内には私以外のお客さんもそこそこいたが、皆示し合わせたようにおじさんから目を逸らして買い物を続けていた。さながら街中で不審者に遭遇したときのようだ。

おじさんは、服装から察するにおそらくキャンペーン専門の非常勤の店員なのだろう。あろうことかドラッグストアの店員も、お客さん同様、おじさんの暴走を見て見ぬ扱いである。

私がレジでの会計を済ませ、店を出るまでの間もずっと、おじさんはまるで壊れたスピーカーのように一方的に喋り続けていた。

実は私も学生時代に、いわゆるマネキンと呼ばれる試供品配布や試飲試食販売のバイトをしていたことがあるので、おじさんのおかれた状況が何となく想像がつく。

試供品と商品の山と一緒に馴染みのないドラッグストアで数時間の販促活動をしたけど、平日だし、客の足を止めることもできず、商品も売れず、おじさん、ヤケクソになったんじゃないのかな。

どうせ売れないし!と開き直って、自ら壊れたスピーカーとなって、気を紛らわせたい気持ち半分、店に八つ当たりしたい気持ち半分ってとこじゃないかな。まあ想像なんだけど。

でも一つ言えるのは、ドラッグストアにいる間ずっと何この人どうしようって気持ちで頭がいっぱいで、おじさんがどこのメーカーの何の商品を売っていたか全然思い出せないということだ。商品名さえ消費者に刷り込ませることも失敗していて、ヤケクソにも程がある。