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未来メモリー

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自分探しの若者と辿るミステリー「夢幻花」東野圭吾

 ※ネタバレはありません。

夢幻花 (PHP文芸文庫)

夢幻花 (PHP文芸文庫)

 

気合の入った帯の紹介文と、綺麗な装丁に心惹かれて手に取った一冊。

東野圭吾らしい、小さな謎が次々と現れては解明しまた新しい謎が出てくる展開に、ついすらすらと読んでしまう。

謎に行き詰りかけた登場人物たちを幸運な偶然が何度も助けてくれるのは、ご都合主義と言ってしまえばそれまでだが、それが無ければこの作品の畳みかけるようなテンポの良さは成立しないので私は気にならなかった。

メインテーマの「禁断の花」と言われる所以、鈍感な私は本文を読むまで察せられなかったが、勘のいい人は早い段階で見破れるかもしれない。

しかしこの「禁断の花」はどこまでが史実でどこまでがフィクションなのか。

読み終わった後にググってみたのだが結局よくわからず、花の歴史に詳しい人がいたらぜひ教えてもらいたいものである。

 

そしてこの小説の裏テーマは進路を考える時期の大学生の心の葛藤である。

 

東野圭吾と言えば原子力発電をテーマにした作品「天空の蜂」を20年近く前に発表していて、こちらは映画化もされた名作だが、この作中では、原子力発電を頭ごなしには否定しないという作者自身のスタンスが見てとれる。(映画は見ていないので映画の方がどのような主眼で作られていたのかは知らない。)

天空の蜂 (講談社文庫)

天空の蜂 (講談社文庫)

 

それから歳月を経て起こった東日本大震災

日本人と原子力発電のあり方が改めて問い直される社会になった。

「天空の蜂」という作品で明らかにされた原子力発電への作者の考えが、東日本大震災の後でどのように変わったのか。変わらなかったのか。それがこの「夢幻花」の主人公の一人である男子大学生が下した進路に関する決断で見てとることができる。

極めて現実的ながらも力強いその結末に、私は少なからず感動した。

登場人物が多様なので、幅広い世代が楽しめる一冊となっている。オススメである。