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ビジネスマンもポエマーも楽しめる金融ハードボイルド「タックスヘイヴン」橘玲

書評

※ネタバレはありません。

 

タックスへイヴン Tax Haven (幻冬舎文庫)

タックスへイヴン Tax Haven (幻冬舎文庫)

 

何か小説でも読もうかと思って書店をうろうろしていたときに何となく見つけたこの一冊。

先日読み始めてから一気に読んでしまった。

 

パナマ文書騒動で一躍有名になったあのキーワードが表題だが、パナマ文書的な話はあまり出てこない。

 

全体を通してとても面白かったのだが、私がもっとも気に入ったのが、この小説における本筋のミステリーに係る「ハード面」と登場人物の情緒に係る「ソフト面」のバランスの良さ。

この二つのバランスが崩れると、読んでいて読者は飽きてしまうのだが、この作品はハードでもソフトでも最後まで惹き付けられた。

 

著者、橘玲氏の経歴から見るに、書かれている金融や租税の知識も生半可なものではないと安心して読める。

前書きに「この小説に書かれている節税方法は執筆時の法令を著者が解釈したものであり、参考にして損失があったとしても責任は負えない」という主旨の注意があるのが、ブラックジョークのようで面白い。

また、作中で明らかに実在の人物をモデルにしたような登場人物が出てくる(ブラック企業と有名な飲食店チェーンの社長、かつては日本のドンと呼ばれたが今や権力の落ちた大物政治家…)あたりでも、難しい題材を扱いながらも著者のユーモアを感じられる。

 

情緒面では大人になってから再会した、高校時代の同級生に対する複雑な感情に思わず共感してしまう。

自分もそうなのだが、世の大人の中には、高校時代の片想いの思い出は大人になっても独特の感傷と共に心に残っている、という人は結構多いのではないだろうか。

そういう大人の感傷を存分に反映させた登場人物の行動が、確実にこの作品の一つのエッセンスとなっている。

 

というわけで、意識高いビジネスパーソンも、空想好きのポエマーも、どちらも満足させられる稀有な物語になってると思う。

未読の方は是非。